株価算定に必要な資料|事業計画の粒度・数値の根拠づけ・評価人が最初に確認する点

株価算定に必要な資料は、過去の財務資料、事業計画、資本政策・株式関連、非事業用資産・ネットデット関連、事業・市場情報の5区分に整理できます。最初の相談段階で揃えたいのは5点です。直近3期の決算書、直近の月次試算表、事業計画(あれば)、株主名簿と資本政策(種類株式・ストックオプションの有無)、借入金と非事業用資産の概要があれば、評価人は手法と工数の見当を付けられます。DCF法では事業計画の有無と質がそのまま評価の質を決めます。3〜5年の期間で、数量・単価や変動費・固定費の内訳まで示され、経営者が承認した計画が理想です。

この記事では、株価算定に必要な資料を区分ごとに一覧にし、事業計画に求められる期間と粒度、評価人が最初に確認する点、事業計画がない場合の進め方を整理します。

最初の相談時に送る最低限の資料

株価算定に必要な資料がすべて揃っていなくても相談は始められます。たとえば、次の5点があれば、評価人は目的に応じた手法、必要な追加資料、期間と費用の見当を付けることができます。

  1. まず、直近3期の決算書(貸借対照表・損益計算書)
  2. 次に、直近の月次試算表
  3. 事業計画(あれば。損益計算書レベルのもので可)
  4. 株主名簿と、種類株式・ストックオプション・新株予約権の有無
  5. そして、借入金の概要と、事業に使っていない資産(投資有価証券、遊休不動産など)の概要

株価算定に必要な資料の一覧

1. 財務資料(過去実績)

資料 用途
過去3〜5期の決算書(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書、注記) 過去業績の分析、事業計画の妥当性の検証、正常化損益の把握
税務申告書(法人税・地方税)、税務上の繰越欠損金の明細 実効税率、税務メリットの評価
月次試算表(直近2年程度) 季節性、直近の業績トレンド、評価基準日までの実績の把握
勘定科目内訳明細書(直近期) 非事業用資産、有利子負債、デットライクアイテムの特定
固定資産台帳、減価償却明細 設備投資と減価償却の将来見積り、遊休資産の把握
監査報告書・レビュー報告書(ある場合) 財務数値の信頼性の確認

 

2. 事業計画

資料 用途
事業計画(3〜5年):損益計算書レベル DCF法の将来キャッシュフローの基礎
事業計画の前提:売上の数量・単価、製品別・顧客別・拠点別の内訳、人員計画、原価・販管費の前提 キャッシュフローの根拠づけ、過去実績との整合の検証
設備投資計画、運転資本(売掛金・棚卸資産・買掛金)の前提 フリーキャッシュフローの算定
過去の予算と実績の比較(3期分程度) 事業計画の達成可能性の検証(監査法人が必ず確認する項目)
中期経営計画、取締役会で承認された計画書 経営者が承認した計画であることの確認

 

3. 資本政策・株式関連

資料 用途
定款、登記事項証明書 発行可能株式数、種類株式の内容、株式の譲渡制限
株主名簿、株式の異動履歴 株主構成、過去の株式取引価格(参考情報)
種類株式の発行要項、投資契約書、株主間契約書 優先分配権・転換権などが普通株式の価値に与える影響
ストックオプション・新株予約権の発行要項と付与状況 潜在株式の希薄化の考慮
過去の株価算定書、増資時の評価資料 評価の一貫性の確認

 

4. 非事業用資産・ネットデット関連

資料 用途
現預金の内訳(拘束性預金、事業運営上必要な最低残高の考え方) ネットデットの算定
借入金・社債・リース債務の明細(返済予定、利率、担保) ネットデットの算定、負債コストの参考
投資有価証券、貸付金、保険積立金、遊休不動産などの明細 非事業用資産の時価評価
退職給付債務、役員退職慰労金の引当状況 デットライクアイテムの検討
訴訟、保証債務、環境債務などの偶発事象 デットライクアイテム、価値への影響の検討

 

5. 事業・市場関連

資料 用途
会社案内、組織図、主要製品・サービスの説明 事業の理解、類似会社の選定
主要顧客・主要仕入先の一覧と取引条件 事業リスクの把握、顧客集中度の分析
業界資料、市場規模データ、競合情報 事業計画の市場前提の検証、類似会社の選定
主要な契約書(販売代理店契約、ライセンス契約、賃貸借契約) 契約に基づく将来キャッシュフローの確認

 

株価算定に必要な資料の中心:事業計画に求められる期間と粒度

期間

DCF法では、事業計画の期間(予測期間)の後に継続価値を算定します。予測期間は、事業が安定した成長率に到達するまでの期間として3〜5年が標準です。ただし、立ち上げ期の事業や大型投資の回収を伴う事業では、安定期に入るまで5〜10年に延ばすことがあります。また、予測期間の最終年度の数値がそのまま継続価値の基礎になるため、最終年度が「一時的に良い年」「投資が集中している年」になっていないかが重要です。

粒度

損益計算書レベルの数字だけでは、評価人は事業計画の合理性を検証できません。そのため、少なくとも次の内訳があると、評価の質が上がり、監査法人や相手方への説明も容易になります。

  • 売上高:数量×単価、または製品別・サービス別・顧客セグメント別の内訳。既存顧客と新規顧客の区分があると、なお望ましい
  • また、売上原価・販管費:変動費と固定費の区分、人員計画との整合
  • さらに、設備投資:維持投資と成長投資の区分、減価償却費との整合
  • 運転資本:売上債権・棚卸資産・仕入債務の回転期間の前提
  • 税金:実効税率、繰越欠損金の利用

過去実績との整合

なお、事業計画の初年度が直近実績から大きく乖離している場合、その理由(新規受注、値上げ、新製品、コスト削減など)の裏付けが必要です。過去3期の予算達成率が低い会社の強気な事業計画は、評価人も監査法人も割り引いて見ます。そこで、事業計画に織り込んだ施策ごとに、実現の確度と根拠を整理しておくと、評価の前提として採用しやすくなります。

株価算定に必要な資料を受け取った評価人が最初に確認する点

株価算定に必要な資料を受け取った評価人は、通常、次の点を最初に確認します。なぜなら、ここで問題が見つかると、評価作業の前に資料の整理や事業計画の修正が必要になるからです。

  1. 事業計画は経営者が承認したものか:担当者レベルの試算ではなく、取締役会や経営会議で承認された計画かどうか。監査法人や相手方への説明でも問われます。
  2. 次に、事業計画の初年度と直近実績・直近予算の整合:期ずれや前提の変更がないか。
  3. また、過去の予算達成状況:計画の信頼性を測る最も客観的な指標です。
  4. 評価目的と事業計画の観点の整合:M&Aの買い手側の評価であれば、売り手が作成した計画に買い手固有のシナジーを織り込む必要があるか、逆に市場参加者の観点で除外すべきか。
  5. 非事業用資産とネットデットの範囲:事業価値から株式価値への調整に必要な項目が特定できるか。
  6. さらに、潜在株式の有無:種類株式やストックオプションがあれば、普通株式1株当たりの価値の計算方法が変わります。
  7. 評価基準日と直近の異常事象:基準日以降の大口受注・喪失、災害、訴訟などがあれば、その扱いを決める必要があります。

事業計画がない場合の進め方

株価算定に必要な資料のうち、事業計画が存在しないことは非上場の中小企業では珍しくありません。その場合、次のいずれかの進め方になります。

  • まず、評価人が経営者へのヒアリングと過去実績の分析に基づいて事業計画の作成を支援する(費用と期間が追加になります)。
  • あるいは、経営者が簡易な計画(売上成長率、利益率の前提)を作成し、評価人がそれを検証・補完する。
  • DCF法を主たる手法とせず、類似会社比較法や時価純資産法を中心に評価する(目的によっては認められないことがあります)。

ただし、評価人が事業計画を作成する場合でも、その内容は経営者が承認する必要があります。評価人が作った数字を経営者が理解せずに承認した計画は、監査法人や相手方への説明の場面で機能しません。

株価算定に必要な資料の準備を効率化するコツ

  • まず、評価人から資料依頼リストを受け取ったら、「ある」「ない」「代替資料あり」を仕分けして一度に返す。
  • 事業計画の前提は、口頭ではなく計算シート(Excel)で共有する。
  • また、基準日以降の重要な変化(大口契約、人事異動、係争)は、聞かれる前に伝える。
  • さらに、過去に株価算定を行っていれば、その算定書と計算モデルを共有する。前回との整合性が説明しやすくなります。
  • M&Aの買い手側であれば、財務DDの報告書と、その中の正常化調整(非経常項目、オーナー関連費用の調整)を共有する。

まとめ

株価算定に必要な資料は、過去の財務資料、事業計画、資本政策、非事業用資産・ネットデット、事業・市場情報の5区分に整理できます。中でも事業計画は、3〜5年の期間で数量・単価や変動費・固定費の内訳まで示され、経営者が承認し、過去の予算達成状況と照らして合理的であることが求められます。また、評価人は事業計画の承認状況・実績との整合・潜在株式の有無などを最初に確認するため、依頼前にこれらを整理しておくと、期間と費用の両面で効率的です。

Keystone Advisoryに相談できること

Keystone Advisoryでは、算定の目的(M&A、増資、ストックオプション、組織再編など)をお伺いしたうえで、目的に応じた資料依頼リストを初回にご提示しています。事業計画の作成・検証の支援、ネットデットや潜在株式の整理も行っています。上記の最低限の資料からのご相談や、事業計画がない状態からのご相談など、株価算定に必要な資料に関するご相談も承ります。お問い合わせフォームからご連絡ください。

参考資料

日本公認会計士協会「企業価値評価ガイドライン」

執筆者

田邉 健介(公認会計士)

Keystone Advisory

監査法人トーマツ、PwCアドバイザリーにてバリュエーション・PPA業務、法定監査、IPO支援に従事。PEファンドでの投資先取締役、事業会社での発行体としてのIPOを経て現職。

※本記事は執筆時点の一般的な評価実務に基づく解説であり、必要な資料は評価目的と対象会社の状況によって異なります。