List of materials required for PPA | Things to be prepared by the buyer, things to be requested from the target company, scope of diversion of DD materials

PPAに必要な資料は、大きく2つに分かれます。買い手企業が準備する取引関連資料(株式譲渡契約書、取締役会資料、株価算定書、DD報告書)と、対象会社に依頼する財務・事業計画・無形資産関連の定量データです。一般的な目安として、前者が全体の2〜3割、後者が7〜8割を占めます。そのため、対象会社側の窓口担当者を早く決め、依頼リストを一度にまとめて渡すことが、PPAの期間と費用を左右します。株価算定・財務DDの資料は多くをそのまま流用できますが、事業計画の観点の違いと基準日のずれには注意が必要です。

この記事では、PPAに必要な資料を「買い手が準備するもの」「対象会社に依頼するもの」「無形資産の種類別に必要なもの」に分けて一覧にし、DD資料の流用範囲と、資料が揃わない場合の対処を整理します。

PPAに必要な資料が求められる3つの場面

PPAに必要な資料は、次の3つの場面で使われます。どの場面で使うかを意識すると、優先順位が付けやすくなります。

  1. 無形資産の識別:まず、買収の目的と対象会社の事業の中身を理解し、どの無形資産を計上すべきかを判断する場面。取引関連の資料と、事業の全体像が分かる資料が必要です。
  2. 評価:次に、識別した無形資産と、時価評価が必要な有形資産・負債の金額を計算する場面。財務数値、事業計画、顧客・契約・技術に関する定量データが必要です。
  3. 監査法人対応:最後に、評価の前提条件の合理性を説明する場面。前提の根拠となる一次資料(契約書、登記、社内データの出力など)が求められます。

買い手企業が準備する資料

買い手側の資料は、主に取得原価の確定と無形資産の識別に使います。多くは買収プロセスの中で既に作成されているものです。

取引関連資料の一覧

material use 備考
株式譲渡契約書(SPA)および付随契約 取得原価の確定、条件付対価・価格調整条項の確認、契約関連無形資産(競業避止、TSA、ライセンス等)の識別 最終版と、価格調整の計算書
取締役会・投資委員会資料、稟議書 買収目的とシナジーの把握、無形資産の識別、のれんの償却期間(投資回収期間)の検討 「なぜこの価格を払ったか」が分かる資料が最重要
株価算定書・バリュエーションモデル 事業計画・割引率(WACC)の前提の引継ぎ、IRRとWACCの整合性確認 計算モデル(Excel)があると効率が大きく上がる
財務DD・税務DD・法務DD・ビジネスDD報告書 正常化EBITDA、簿外債務・偶発債務、契約・知財の状況、顧客分析の引継ぎ DDの基準日とクロージング日の差に注意
買収対価の内訳 現金・株式対価、条件付対価、取得関連費用(FA報酬・DD費用など)の区分 取得関連費用は連結上は発生時の費用(取得原価に含めない)だが、個別上の子会社株式の取得原価には付随費用として含めるのが原則。段階取得の場合は既保有株式の時価も
買い手の会計方針・監査法人との協議記録 簡便的な取扱いの範囲、のれんの償却方針、暫定処理の要否 事前協議があると手戻りが減る
連結上の情報 対象会社の決算期、実効税率、連結範囲、報告セグメント のれんの事業単位への配分に使用

 

対象会社に依頼する資料

PPAに必要な資料のうち、対象会社側の資料は評価と監査対応の中心になります。そのため、対象会社の経理部門に窓口担当者を置いてもらい、依頼リストを一度にまとめて渡すことが、収集を早める最大のコツです。

財務・会計関連

material use
過去3〜5期の決算書、税務申告書、監査報告書(ある場合) 過去業績の分析、事業計画の妥当性の検証、実効税率の確認
月次試算表(直近2〜3年) 季節性の把握、クロージング日前後の推移確認
クロージング日の貸借対照表と勘定科目内訳明細 時価評価の対象となる資産・負債の特定。PPA完了の必須資料
固定資産台帳(取得年月、取得価額、簿価、耐用年数) 有形固定資産の時価評価の要否判定、動産評価の基礎
不動産の登記事項証明書、固定資産税評価、過去の鑑定書 不動産の時価評価
棚卸資産の明細(品目別、製品・仕掛品・原材料の区分)と粗利率 棚卸資産の時価評価(製品・商品は販売価格から販売コスト等を控除した価額を基礎にすることが多い)
借入金・リース契約・退職給付関連資料 負債の時価評価、退職給付債務の確認
訴訟・保証・環境対策などの偶発事象に関する資料 企業結合に係る特定勘定、偶発債務の検討

 

事業計画関連

material use
事業計画(3〜5年、損益・投資・運転資本を含む) 無形資産評価の基礎。買収時の事業計画とクロージング後の見直し版の両方があれば両方
事業計画の前提資料(数量・単価・顧客別・製品別の内訳) 無形資産ごとのキャッシュフローへの分解
過去の予算と実績の比較 事業計画の達成可能性の検証(監査法人が確認する定番項目)
設備投資計画、人員計画 貢献資産コストの算定、事業計画の整合性確認

 

無形資産の種類別に必要な資料

評価対象となる無形資産の種類によって、追加で必要になる定量データが異なります。たとえば、これらは対象会社の販売管理システムや人事システムから出力してもらうことが多く、出力に時間がかかる場合があるため、早めに依頼することが大切です。

無形資産の種類 必要な資料
顧客関連資産(顧客との関係、顧客リスト) 顧客別売上高・粗利の推移(3〜5年、できれば10年)、主要顧客との基本契約書、顧客数の推移と新規・離脱の実績(離脱率分析用)、受注残の明細
マーケティング関連資産(商標、ブランド) 商標登録の一覧と登録証、ブランド別売上高、広告宣伝費の推移、ライセンス契約(自社ブランドの使用許諾を行っている場合)
技術関連資産(特許、ソフトウェア、ノウハウ) 特許・実用新案の一覧と残存期間、技術別・製品別の売上高、研究開発費の推移と仕掛中の研究開発の内容、技術ライセンス契約
契約関連資産(ライセンス、競業避止、有利な契約) 各契約書の写し、契約条件と市場条件の比較に必要な情報、競業避止契約の当事者・期間・範囲
人的資産(のれんの構成要素として算定する場合) 従業員数・職種別の人員構成、平均給与、採用コスト、研修期間・研修コスト、離職率

 

株価算定・財務DDの資料はどこまで流用できるか

買収時に株価算定や財務DDを実施していれば、その資料の多くはPPAでそのまま使えます。ただし、目的が異なるために注意が必要な点もあります。

そのまま流用できるもの

  • 過去の財務数値の分析、および正常化EBITDAの調整内容(非経常項目の把握に有用)
  • 顧客別・製品別の売上分析(顧客関連資産の評価の基礎になる)
  • 割引率(WACC)の計算とその根拠(PPAではWACCとIRR、各資産の期待収益率の整合性を検討する出発点になる)
  • さらに、法務DDで整理した契約一覧、知的財産の一覧(契約関連・技術関連資産の識別に使う)

流用に注意が必要なもの

  • 事業計画:たとえば、株価算定で用いた事業計画が売り手作成のままの場合や、買い手固有のシナジーを織り込んでいる場合は、PPAで用いる「市場参加者の観点」からの事業計画として調整が必要になることがあります。
  • 基準日のずれ:また、DDの基準日はクロージング日より前であることが通常です。PPAの評価基準日は企業結合日(クロージング日)ですので、基準日以降の変動を確認する必要があります。
  • DDの調整項目と時価評価の違い:さらに、財務DDで行う簿外債務や正常化の調整は、PPAにおける資産・負債の時価評価とは別の概念です。DDの調整をそのままPPAの時価評価差額として使うことはできません。

PPAに必要な資料が揃わない場合の対処

実務では、必要な資料がすべて揃うことの方が珍しいと言えます。よくあるケースと対処法を挙げます。

  • 対象会社の協力が得られにくい(持分法適用会社や、PMIで経理部門が多忙な場合):この場合、買い手側で入手済みのDD資料から着手し、対象会社への依頼を最小限に絞ります。依頼の際は、PPAが買い手の会計上の義務であること、資料の使途を明確に伝えると協力を得やすくなります。
  • 顧客別データが長期間分ない:たとえば、システム移行などで過去データが失われている場合、入手できる期間のデータと業界の一般的な離脱率を組み合わせて推定します。推定の根拠は監査法人に説明する必要があるため、早めに評価人と方針を相談します。
  • 海外の対象会社で現地会計基準の帳簿しかない:簿価を時価とみなす簡便的な取扱いは、帳簿が一般に公正妥当と認められる会計基準に従っていることが前提です。現地基準と日本基準(またはIFRS)の差異を把握したうえで、時価評価の要否を検討します。インドネシアなど現地の会計基準がIFRSに近い国でも、実務上の適用状況には差があるため、個別の確認が必要です。
  • 事業計画が更新されていない:買収時の事業計画をクロージング時点の状況で見直し、経営陣の承認を得た版を用意します。監査法人は、事業計画が経営者によって承認されたものであるかを確認します。

PPAに必要な資料の依頼をスムーズに進めるコツ

  • まず、依頼リストは一度にまとめて渡し、優先順位(識別に必要なもの→評価に必要なもの→監査対応で必要になるもの)を示す。
  • 次に、対象会社側の窓口担当者を決め、依頼と回答の履歴を一元管理する。
  • また、既存の帳票やシステム出力をそのまま受け取り、フォーマットの作り直しを求めない。
  • 機密性の高い資料(顧客別売上、給与データなど)の取扱いについて、評価人との秘密保持契約と社内のアクセス範囲を事前に整理する。
  • そして、DD資料と株価算定の計算モデルは、評価人の選定前に取り出せる状態にしておく。

summary

PPAに必要な資料は、買い手が準備する取引関連資料(SPA、取締役会資料、株価算定書、DD報告書)と、対象会社に依頼する財務・事業計画・無形資産関連の定量データに大別されます。後者が一般的な目安として全体の7〜8割を占めます。また、株価算定・DDの資料は多くをそのまま流用できますが、事業計画の観点の違いや基準日のずれには注意が必要です。そして、資料が揃わない場合も、入手可能な情報に基づく合理的な推定と、監査法人への早期の方針説明で対応できます。

Things you can discuss with Keystone Advisory

Keystone Advisoryでは、案件の内容(取得形態、業種、識別されそうな無形資産)に応じた資料依頼リストを初回の打合せ時にご提示しています。対象会社への依頼文の作成、DD資料のどれをそのまま使えるかの仕分け、海外子会社からの資料収集の段取りもお手伝いしています。「PPAに必要な資料を何から集めればよいか分からない」という段階でのご相談も承ります。Contact formPlease contact us from.

References

Accounting Standards for Business Combinations (Corporate Accounting Standards No. 21)

Application Guidelines for Business Combination Accounting Standards and Business Separation Accounting Standards (Application Guidelines No. 10)

IFRS No. 3 (IFRS Foundation)

Writer

Kensuke Tanabe (CPA)

Keystone Advisory

Engaged in valuation/PPA work, statutory audits, and IPO support at Tohmatsu Audit Corporation and PwC Advisory. He assumed his current position after working as a director at a PE fund and an issuer at an operating company.

※本記事は執筆時点の会計基準に基づく一般的な解説であり、必要な資料は案件の内容や監査法人の方針によって異なります。