
インドネシアにおけるグローバルミニマム課税とは|対象企業・DMTT・申告実務を解説
インドネシアのグローバルミニマム課税(Global Minimum Tax)は、多国籍企業グループが所在する各国・地域で、最低15%の実効税率を確保することを狙った国際的な税制です。インドネシアでは、財務大臣規則PMK No.136/2024によって導入され、IIRとDMTTは2025年1月1日から、UTPRは2026年1月1日から適用されています。
この制度で特に注意すべき点は、「インドネシア子会社は規模が小さいから対象外」という誤解です。対象になるかどうかは子会社単体ではなくグループ全体で判定されるため、日本の親会社を含むグループの連結総収入が年間7億5,000万ユーロ以上であれば、たとえインドネシア法人の売上が小さくても、インドネシア法人にNotificationやDMTT申告などの対応が必要となる場合があり、追加税額が発生する場合には納付義務も生じます。
本稿では、インドネシアにおける制度の全体像、IIR・UTPR・DMTTの違い、そして日系企業が実際に動くべき実務とスケジュールを整理します。
先に要点を押さえるなら
- 対象は原則として連結総収入7億5,000万ユーロ以上の多国籍企業グループ。中堅・中小規模のグループは基本的に対象外
- インドネシアの法人税率は22%だが、それでもDMTT(国内最低追加税)は発生しうる
- 日本本社がGloBE計算やGIRを担っても、インドネシア法人にはNotificationやDMTT申告への対応が必要
- 初年度は追加税額の納付期限が申告期限より先に到来する点に注意が必要
1. 制度の考え方
グローバルミニマム課税は、OECD/G20のBEPSプロジェクトにおけるPillar Two(第2の柱)を土台とする制度です。狙いはシンプルで、多国籍企業が利益を低税率国に付け替えてグループ全体の税負担を過度に軽減することを防ぐことにあります。
仕組みも一言でいえば、ある国・地域のGloBE実効税率が15%を下回ったとき、その不足分をトップアップ税として課し、最低15%まで引き上げるというものです。
ここで注意したいのは、この実効税率が法定法人税率とイコールではない点です。GloBEルールに沿って所得や対象税額を調整したうえで、国・地域単位で計算されます。
2. インドネシアでの導入状況
インドネシアでは、PMK No.136/2024が制度の骨格を定めています。対象グループの構成会社に当たるインドネシア法人や恒久的施設(PE)について、IIR・UTPR・DMTTによる課税を規定するものです。
そのうえで、納税者登録、Notification、GIR(GloBE Information Return)、GloBE年次申告書、追加税額の納付といった具体的な手続きは、税務総局長規則PER-6/PJ/2026で定められています。GloBE関連の申告は電子申告を前提に整備されており、実務対応もこれに沿って進めることになります。
そのため、対象企業は制度の概要を理解するだけでは不十分です。インドネシア法人に対して、どのような登録、通知、申告および納付義務が生じるのかを個別に確認する必要があります。
3. 対象となるグループの判定
対象は、最終親会社の連結財務諸表における年間連結総収入が7億5,000万ユーロ以上の多国籍企業グループです。判定は単年ではなく、対象となるGloBE事業年度の直前4事業年度のうち、少なくとも2事業年度でこの基準を満たすかどうかで行います。
判定はインドネシア子会社単体ではなく、親会社を含むグループ全体で行われます。インドネシア子会社の売上や資産がどれだけ小さくても、グループ全体で基準を満たせば、Notificationや申告の対象になります。逆に、連結総収入が基準に届かない中堅・中小規模の日本企業グループは、通常この制度の対象外です。
4. IIR・UTPR・DMTTの違い
インドネシアのグローバルミニマム課税では、主に次の3つの仕組みを理解する必要があります。
| 区分 | 正式名称 | 概要 |
|---|---|---|
| IIR | Income Inclusion Rule(所得合算ルール) | 低税率国の子会社等に係るトップアップ税を、親会社側で課税する |
| UTPR | Undertaxed Profits Rule | IIRで十分なトップアップ税が課されない場合に、他国・地域で追加課税する |
| DMTT | Domestic Minimum Top-up Tax(国内最低追加税) | インドネシア所在の構成会社のGloBE実効税率が15%を下回る場合に、インドネシアが優先的に追加課税する |
実務上、特に重要となるのがDMTTです。DMTTが適用されると、インドネシアで生じた低課税所得に係るトップアップ税を、インドネシアが優先的に課すことになります。日本など他国で課税される前に、まずインドネシアで課税される仕組みです。だからこそインドネシア法人は、通常の法人税申告に加えて、自社のGloBE実効税率とDMTTの発生可能性を、インドネシア法人自身の対応事項として確認する必要があります。
5. 法人税率が22%でもDMTTが発生する理由
インドネシアの法定法人税率は22%です。15%を上回っているのだからDMTTは関係ない ― そのように考えられることがありますが、ここが最も誤解の多いところです。
GloBE実効税率は法定税率で決まりません。会計上の利益と対象税額をGloBEルールで調整し、国・地域単位で計算した結果として出てきます。たとえば、タックスホリデーなどの税務優遇、税額控除、一時差異、GloBE固有の各種調整が、GloBE所得や対象税額に影響します。
その結果、法定税率が22%であっても、税務優遇措置などの影響によりGloBE実効税率が15%を下回り、DMTTが発生する可能性があります。特に、タックスホリデーなどの所得ベースの優遇措置や税額控除を利用している企業では、慎重な確認が必要です。
6. インドネシアのグローバルミニマム課税の実務
適用開始時期
PMK No.136/2024により、IIRとDMTTは2025年1月1日から、UTPRは2026年1月1日から適用されています。ここで特に注意すべきなのが会計年度の扱いです。GloBE事業年度はインドネシアの暦年ではなく、最終親会社の連結会計年度を基準に判定します。3月決算の会社が暦年ベースで考えると期ずれが起きるので、注意が必要です。
3月決算・初年度のスケジュール
最終親会社が3月決算で、最初のGloBE事業年度が2025年4月1日~2026年3月31日だった場合を例にとると、主な期限は次のとおりです。
| 項目 | 期限の考え方 | 3月決算の例 |
|---|---|---|
| GloBE事業年度 | 親会社の連結会計年度 | 2025年4月1日~2026年3月31日 |
| Wajib Pajak GloBEステータス追加申請 | 初年度終了後9か月以内 | 2026年12月31日 |
| 追加税額の納付 | GloBE課税年度終了まで | 2027年3月31日 |
| GloBE年次申告書(通常) | GloBE課税年度終了後4か月以内 | 2027年7月31日 |
| GloBE年次申告書(初年度・延長後) | 所定の通知手続きにより最長2か月延長 | 2027年9月30日 |
| 初年度のGIR/Notification | GloBE事業年度終了後18か月以内 | 2027年9月30日 |
| 2年度目以降のGIR/Notification | 各事業年度終了後15か月以内 | ― |
このスケジュールで特に注意すべきなのが、納付期限が申告期限より先に来るという一点です。上の例なら、追加税額の納付が2027年3月31日、GloBE年次申告書の通常提出期限が2027年7月31日。つまり「申告までに計算が終わればいい」という発想では間に合いません。
追加税額が発生する可能性がある場合には、納付期限から逆算して税額の試算と社内承認を先に進める必要があります。これが初年度対応における重要なポイントです。
インドネシア法人が担う作業
対象グループでは、インドネシア法人側で概ね次の作業が発生します。
- グループが制度の対象となるかの確認と、最終親会社の連結総収入の確認
- インドネシアに所在する構成会社の特定
- Wajib Pajak GloBEステータスの追加申請
- GIRの提出主体の確認と、Notificationの提出要否の判断
- DMTTの発生有無の検討、DMTT申告書の作成、および追加税額が発生する場合の税額計算・納付
- 日本の親会社・グループ税務部門との情報連携、および会計監査人との計算方針・開示方法のすり合わせ
実務上、インドネシア法人だけでグループ全体のGloBE計算を完結させることは困難です。GloBE計算は、グループ全体の会計・税務情報を基礎として行われるため、日本の親会社が採用する計算方針、グループ全体のGIR、各国・地域のデータとの整合性を確保する必要があります。
7. GIRとNotificationの整理
GIR(GloBE Information Return)は、グループ全体のGloBE情報をまとめた申告書です。構成会社の情報、組織構造、各国・地域のGloBE実効税率、トップアップ税の計算結果、IIR・UTPRに基づく税額配分などを記載します。
Notificationは役割が違い、「GIRをどの法人が提出するのか」を税務当局に伝える通知です。日本の親会社や国外の指定申告法人がGIRを出す場合、インドネシア法人は原則としてNotificationを提出します。一方、インドネシア法人自身がPER-6/PJ/2026に基づいてGIRを提出したのであれば、Notificationは免除されます。
要は、GIRをどこが出すかが決まれば、Notificationの要否も整理しやすくなります。提出主体の設計を早めに固めておくことが重要です。
8. 日系企業のチェックリスト
インドネシアに子会社を持つ日本企業が、最低限おさえておきたい確認項目です。
| 確認項目 | 主な内容 |
|---|---|
| 対象判定 | グループの連結総収入が7億5,000万ユーロ以上か |
| グループ構成 | インドネシア法人が構成会社に当たるか |
| 決算期 | 最終親会社は3月決算か12月決算か |
| 日本本社の体制 | GloBE計算・GIR作成の体制が整っているか |
| インドネシア側の体制 | Notification/GIRの提出方法とDMTT申告体制 |
| DMTT | トップアップ税が発生する余地があるか |
| 期限管理 | 納付・申告・通知の期限を把握しているか |
| 証憑 | 計算根拠となる会計・税務資料をそろえられるか |
特に日本企業の場合、日本の親会社、会計監査人、インドネシア法人およびインドネシアの税務アドバイザーの間で、役割分担を早期に決めておくことが重要です。
例えば、日本の親会社や監査人がグループ全体のGloBE計算およびGIR作成を担当し、インドネシア法人と現地税務アドバイザーが、インドネシアにおけるNotification、DMTT申告および納付手続きを担当する方法が考えられます。
まとめ
インドネシアではPMK No.136/2024により2025年からグローバルミニマム課税が始まり、対象グループにはDMTT・GIR・Notificationという新しい実務が求められています。核心は、インドネシア法人単独ではなくグループ全体で動く必要があること。日本本社・監査人・インドネシア法人・現地税務アドバイザーが早めに役割を分担し、計算方針と提出主体を整理しておくかどうかで、初年度の対応負担は大きく異なります。
また、特に注意すべき点として、追加税額が出る場合は納付が申告に先行します。期限直前で慌てないよう、十分な準備期間を確保してください。
キーストーンでは、インドネシアの日系企業向けに、対象判定からDMTT影響分析、Notification対応、GIR対応支援、DMTT申告書の作成と追加税額の納付手続きまで、一貫してサポートしています。インドネシアのグローバルミニマム課税への対応をご検討の際は、お気軽にご相談ください。
- PMK No.136/2024(JDIH Kementerian Keuangan)
- PER-6/PJ/2026(Direktorat Jenderal Pajak)
- OECD Administrative Guidance
- OECD Pillar Two(Global Anti-Base Erosion Rules)



